ゆあら
薄暗い部屋でMは、静かに両手を後ろに組まされ、冷たい革の感触に背筋を震わせた。
「まだ…何もしていないのに、そんなに震えているの?」
低く艶を帯びた声が、耳元を撫でるように囁いた。
彼女の手がゆっくりと、首筋から鎖骨へと滑り落ちていく。
その指先には、支配する者の余裕と、弄ぶ者の残酷な優しさが滲んでいた。
「…恥ずかしいです、こんな姿…」
彼の声はか細く、それでもどこか甘く、媚びるように揺れていた。
彼女は微笑むと、黒革の鞭を手に取った。音もなく空気を裂く音が響く。
「恥じる必要はない。お前は、命じられるためにここにいるのだから。」
一打目は、意識の深いところを震わせた。
痛みと快感が混ざり合い、彼の瞳が潤む。
ただの痛みではない。彼によって“存在”を肯定される、そんな悦びだった。
やがて、鞭のリズムに合わせて彼の吐息が熱を帯び、
赤く染まった肌の上を、彼女の指先が慈しむように這う。
「素直ね。よくできた。」
たったそれだけの言葉が、彼の心を震わせた。
まるで、罰さえも愛撫のように思えてくる。
彼女の言葉、触れ方、目線すべてが、彼を染めていく。
ここでは、痛みさえも悦楽に変わる。
心も体も、少しずつ、完全に彼のものになっていくのを感じていた。